小学校教員にょんの日々ログ

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15冊目「そして、バトンは渡された」 106

今年度15冊目の読了はこちら。

 

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「そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ

瀬尾まいこさんの小説を読むのは、これが二冊目だ。

ずいぶん前に、「幸福な食卓」を読んで以来なので、

もう10年以上ぶりになる。

 

個人的にはずれがない「本屋大賞」は、毎年チェックしている。

そして、今年、発表された本屋大賞1位がこの作品だった。

平積みされて、よく本屋でも見かけていた表紙だったが、

本屋大賞を受賞するまで手に取ろうと思わなかったのだから、

本屋大賞様様である。

とてつもなくいい作品に巡り合えた。

 

主人公の森宮優子は、高校3年生。

受験を控え、あわただしい毎日を過ごしている。

そんな彼女には、4人の親がいた。

水戸、梨花、泉ヶ原、そして森宮―。

四回も苗字が変わった優子。

 

ここまで聞くと、

先入観で、「壮絶な生い立ちだな。」と思ってしまった。

しかし、この小説は、その先入観を木っ端みじんにする。

優子は、どの親にもいつも愛されていたのだ。

それぞれの親と過ごした時間は、多くはなかったが、

そして、楽しいことばかりではなかったのだが、

それでも、優子自身、そんな自分の境遇を「不幸だ」と

嘆いていないのだ。

そうした状況をよく表した印象深い優子のセリフがある。

 

「森宮さん、次に結婚するとしたら、意地悪な人としてくれないかな」

 

 

序盤で、こうした状況が明らかになり、

読者としては少々面食らった感じで物語は進んでいく。

 

4人の親のうち、優子にとって最後の親である森宮さんとの日常を軸に、

物語は、それまでの3人の親とのエピソードが回想形式で挟まれながら、

展開していく。

どのエピソードを読んでも、

それぞれの親が優子のことを第一に考え、

目いっぱいの愛情を注ぎ、

血のつながりのない自分が親としてどうすればいいのか、

苦悩しながら全力で子育てに励む姿があった。

水戸さんは、優子と離れ、ブラジルに移り住んで、

再婚し、新しい家族ができても、

優子に手紙を送り続け、ずっとつながりを

保とうと必死だった。

梨花さんは、派手好きで行動力があり、

突拍子もないことをして優子を驚かせることしばしばだったが、

それも全て優子の人生を第一に考えてのことだった。

泉ヶ原さんは、お金持ちで、でも威張ったところがなく、

中学生と言う多感な時期に突然自分の娘になった優子のために、

してやれることはあまりないけど、

優子が大好きだったピアノを毎日夜中に

きっちりと調律してくれていた。

森宮さんは、ちょっとアドバイスや励まし方なんかに、

ピントがずれたところがあるけど、

優子の親になって、自分の人生が二倍になったと喜び、

どんなときも家でご飯を作って帰りを待ってくれていた。

 

優子はそんな愛情を一身に受けて育つ。

が、血のつながりがないゆえに、

気を遣ったり、

親が何度も変わるうちに、

家族と言うものに、ある種ドライな、

割り切りを持つようになる。

けれど、そんな優子のドライな部分を、

氷のような部分をすら、

その愛情でゆるやかに溶かしてく。

全編を通して、

ものすごく感動的な盛り上がりがあるわけではなく、

どちらかというとそうした珍しい生い立ちを無視するかのように、

淡々と物語は進んでいく。

その淡白さが実に心地いい。

それは、あくまで互いに相手を思いやるが故の

淡白さであることがわかっているからだ。

物語が淡々と進めば進むほど、

その裏の気遣いや愛情が胸を衝く。

 

この物語を読んでいて、

伊坂幸太郎の「オー!ファーザー!」を思い出した。

あの物語も4人の親(父親だったけど)が出てきたっけ。

家族って何なんだろう。

血のつながりがなければ家族にはなれないのか。

血がつながっているからこそ、わがままにもなれるのか。

優子の自問自答を通して、

家族について考えさせられた。

そして、家族だけじゃなくて、

もっともっと身の回りの

自分に関わる人たちを大切にしないとと思った。

 

優子は親が四回も変わる経験をしたこともあって、

それぞれの親から選択を迫られる出来事が何度もあった。

それは、優子の意思とは無関係に、

ある意味大人の事情でそう迫られた。

だから優子は多くを望まない。

不平不満を言わない。

だって十分幸せだから。

 

でもそんな優子が運命の相手に巡り合う。

そして、結婚を決意する。

これまで、自分の意思とは関係のないところで、

無慈悲な選択に迫られてきた優子が、

自分の意思で結婚を選択するのだ。

そのことが、自分のことのようにうれしかった。

優子はこの選択によって、

自分の意思で決めたからこその苦労や悩み、

喜びなど、様々なことを経験することになるのだ。

この辺りから、本当の意味で「生き始めた」優子。

それは、かつて親だった人たちを巻き込んで、

物語のフィナーレへなだれ込んでいく。

 

物語の最後の最後、語り手が初めて、

「優子」から「森宮さん」に変わる。

相変わらずの淡々とした、

そして、森宮さんらしい飄々とした語り口に変わりないのに、

涙が止まらない。

この物語のタイトル「そして、バトンは渡された」

のもつ本当の意味がここで明らかになる。

見事なまでに爽快で、

清々しい終わり方だった。

 

「身近な人が愛おしくなる」

 

まさに帯のキャッチコピーの通り。

素晴らしい作品だった。