小さくて大きな一歩。 267
異動して2年目の春を迎えた。
これまで今の学校を長く支えてこられた先生が一気に3人抜けた。
でも、いつだってできることはあるし、組織をより良くしていくことはできるはずだ。
そして、組織は人だけど、人じゃないよなあとも思う。
大事なのは、今、組織にいる人そのものであって、その人が、スーパーマンかどうかは関係ない。
RADWIMPSが野田洋次郎4人のバンドだったら、もっとすごいバンドになっていたかと考えると、おそらくそうではないのと似ているかもしれない。
最近、そんなことをずっと考えている。
「雨垂れ石を穿つ」という言葉がある。
現実は、「穿つ」って言葉のインパクトよりももっと静かでゆっくりとしたものなのかもしれない。
この言葉のように、組織が緩やかにでも確かな手ごたえを感じながら変わっていくところを、ぼくは見たいんだと思う。
組織の変化をその中の1人として、内側から眺めてみたいんだろう。
異動初年度の昨年は、コロナ&初めて担任する低学年&慣れない環境などに苦戦した。
外から入ってきただけに、組織のよくない部分も色々と見えた。
意気込んで異動してきた最初の頃、ぼくは、組織を「変えよう」とした。
積極的にあちこちに働きかけて、まるでそれが自分の使命とでも言わんばかりに。
でも、うまくはいかなかった。
「人」を「変える」のは難しい。
「組織」も「変える」のは難しい。
ぼくが使っていた「変える」という言葉は、自分以外の対象が「変わる」のを強要していた。
そこに、自分が「変わる」という発想はなかった。
人も組織も、外側から「変えられる」と感じると、反発する。
変えようとする以上の力で、押し返してくる。
諦めたわけじゃないけど、ぼくは、やり方を変えた。
一人一人の先生が、今何を感じているのか、何を思っているのか、どうしたいのか、そんなことをただただ丁寧に聞くように心がけた。
自分と違うことを感じていても、とにかく共感を意識した。
自分と違うことを思っていても、その背景に思いを巡らせた。
何をしたいのかを聞いて、その背後にある価値観を想った。
もちろん、意識はしたけれど、十分聞けたとは思わない。
自分が使える時間にも制約がある。
それでも、少しずつ先生たちとの関係性が変わっていくのを感じた。
そして、3月末。
異動が決まった先生たちが身の回りをきれいにして去っていく中、残ることが分かっている先生たちで「来年度の会議や対話の時間をどう設計していこうか」という話になった。
その流れの中で、4月1日の午前と午後の職員作業や会議前の貴重な30分を委ねてもらえることになった。
管理職と教務主任と作戦会議を練り、当日を迎えた。
午前の職員作業前、職員室から隣の会議室に移動してもらった。
室内には、4つの机の周りにそれぞれ4つずつのイス。
机の上には、対話用のカードゲーム「センセイトーク」を準備しておいた。
お題カードは、新転任の先生方でも困らないように、少し内容を精選。
まずは、「今のあなたの状態は、10点満点中何点ですか?」と投げて、グループでチェックインしてもらった。
同じ7点にも、違った理由があり、そこにその人が少し見える。
短い時間でも、「聞く」ことだけに集中できる、「話す」ことだけに集中できる空間や時間の大切さをひしひしと感じた。
その後、センセイトークのルール説明を簡単に行い、10分間、それぞれで対話をしてもらった。
どのグループからもにぎやかな声が聞こえ、笑顔が見えて、純粋にうれしかった。
感情を出して、それを共有できるのって、やっぱり心地いいなあって思った。
午前のチェックインの30分は、あっという間に終わって、その後、職員作業に移った。
その職員作業に移る前の5分ほどの休憩時間。
「にょんさん、ありがとう。何かめっちゃあったかい気持ちになったわあ。」
「めっちゃ楽しかった!時間短すぎへん?!笑」
「いやあ、何かこの学校に来て今日が一番いいスタート切れたなあって感じました。」
そんな言葉をかけてくれる先生たちがいた。
届いたと思うと、うれしかった。
昼食をはさんで午後からの職員会議前、アイスブレイク第2弾の30分。
チェックインは、「今日のお弁当で一番おいしかったおかずは何?」。
親睦会の担当の方が、注文してくださって、みんな同じお弁当を食べていたので、この問いを投げてみた。
「エビフライだ」「煮物だ」「いや、おかずやなくて白ご飯や」と大いに盛り上がった。
そこで、ほぐれてきたようだったので、次の問いへ。
「あなたが『これは参加したくないなあ』と思うのは、どんな会議ですか?」
結構チャレンジングな問いだと思っていた。
状況によっては、過去の会議での誰かの特定の言動をイメージして、それが何となくわかってしまうような発言が出るかもしれないから。
でも、最終的に残ったメンバーの今の様子でそれは大丈夫だろうと判断した。
4分で20個という条件で、グループごとにアイデア出しをしてもらった。
4分で20個というところに、スピード感を持たせることで、一個アイデアが出ても、それをじっくりではなく、次へと意識を向ける意図もあった。
どのグループもほぼ20個を出し切ったのと、他のグループから聞こえてくる意見を耳にして、「ああ~!」とあちこちから共感の声が上がっていたことには、びっくりした。
出した20個のアイデアの中から、最大で3つまで「特に参加したくない会議」を選んでもらった。
選んでもらったら、全体でシェア。
どのグループも3つ選んでて面白かった。
別に1つでもいいのに笑
これは、「3つ選ばなきゃ」という意識が働いた結果なのか、それとも「特に参加したくない」がたくさんあったということか。
全体シェアすると、一人一人の先生たちの中にあったネガティブな会議のイメージが可視化されたことで、「こういう会議はしたくないよなあ」というものが共有された。
今振り返ると、これが良かったなあと思った。
メインの問いは、このあと。
「では、今出たような会議を生み出さないために、あなたにはなにができますか?」
主語を「あなた」にして、自分事にしてもらうことを促した。
いきなり、この問いを投げると、ふわっと抽象的な優等生的答えが表面をなぞって終わるんじゃないか、という危惧があって、足場かけの問いとして、先の「参加したくない会議」出しをした。
最後に、この問いに対する一人一人の考えを紙に書いてもらい、グループでシェア。
紙は提出してもらって、画用紙に一覧にして貼り、いつでも見えるように職員室に掲示した。
「今日の会議は何点でしたか?」の問いを添えて。
これが、本校の今年のスタート。
翌日の部会でも、それぞれチェックインからすたーとすることができた。
これは、大きな一歩なのだろうか。
それとも、小さな一歩なのだろうか。
今は、まだわからないけれど、どこにも理想郷なんてない。
そこには、そこの現実があるだけ。
そんな、しばらく前に友人が言っていた言葉を想う。
一つ一つ、焦らず、欲張らず、積み重ねていく。