小学校教員にょんの日々ログ

毎日の出来事や考え、思ったことなどとにかくアウトプット!

彼の涙。 97

今日、離任式があった。

昨年までお世話になった先生たちとお別れをする。

今年は、たくさんの先生が抜けた。

どの先生も、今の職場を長年にわたって

支え続けて来てくれた先生たちだ。

 

まず、職員室で、職員だけでお別れのあいさつがある。

この時点で、例年にも増して、しんみりした雰囲気。

あちこちで涙ぐむ先生たち。

私は、努めて明るく振舞った。

さよならだけど、さよならじゃない。

お互いに戦う場所は変わるけど、

子どもたちのために全力を尽くすことは

変わらない。

そんな想いがあった。

ただ、まっすぐに

一人一人の先生の目を見つめて

話を聴いた。

心に刻もうと思った。

 

職員室でのあいさつは、

いつもより少し時間を取ったが、

おおむね予定通りの時刻。

次は、体育館で子どもたちとの離任式。

 

この日、子どもたちはとても静かに離任の先生たちを待った。

静まり返る体育館。

朝の光が、二階の窓から柔らかく差し込む。

300人以上いるとは思えない静けさだった。

その静けさが何よりも、お世話になった先生たちへの感謝の気持ちを

雄弁に語っているように思えた。

 

しばらく待つと、教頭先生に連れられて、

離任された先生方が入場してこられた。

暖かい拍手で迎える子どもたち。

離任式は、とても暖かく、優しい雰囲気に包まれていた。

とても感動的だった。

 

そんな中、一人の男の子の姿が目に留まった。

受け持つ5年生のやんちゃなAくんだった。

離任される先生の中に、

ずっと算数を教えてもらっていた先生がいた。

Aくんとその先生は、よくケンカした。

わからないとすぐあきらめ、

学習に向かう態度にムラがあるAくん。

そんなAくんがわかるまで厳しいが、

絶対に見捨てない先生。

私も担任として関わっていたので、

そんな二人のやり取りは毎日見ていた。

すぐ調子に乗る。

空気を読まず、好き勝手発言して、にらまれる。

 

そんなAくんが、まっすぐその先生を見ていた。

その姿は、何百人もいる子どもたちの中でも、

何だか目が離せない、

何とも言えないオーラのようなものをまとっていた。

そんな佇まいだった。

 

式は、無事終わった。

最後は、全校児童で、盛大に長い花道を作って、

離任される先生方の最後の見送りをする。

 

5年生は、体育館から一番遠い、

つまり、離任される先生方が、

一番最後に通る場所でスタンバイした。

 

なかなかやってこない先生たち。

きっと、途中途中で、各学年の子どもたちに

もみくちゃにされているんだろう。

それからさらにしばらく待っていると、

とうとう5年生のところまで先生方がやってきた。

拍手で見送る子、

ハイタッチを求める子、

「ありがとうございました。」と言う子、

様々だった。

 

そんな中を、算数でお世話になったあの先生が

やってきた。

Aくんは、こころなしか落ち着きがなかった。

そして、先生がAくんのところまできた。

先生は、ぐしゃぐしゃに泣いていた。

Aくんはそんな先生を見て、

そっけなく、小さくぴょこっとおじぎをした。

彼なりの精いっぱいの謝意がそこにはあった。

先生にもそれが十分伝わったんだろう。

さらに顔をぐしゃぐしゃにして、

Aくんの頭に手をポンと乗せ、

「ありがとうね。」と一言言った。

その瞬間、Aくんの目から大粒の涙がボロボロとこぼれだした。

私は、Aくんがそこまでぐしゃぐしゃに泣いている姿を見たことがない。

そっけないおじぎは、

崩れそうになる自分を支えるための精いっぱいの抵抗だったのだ。

それは、時間にして1分にも満たない出来事だった。

でも、その場面は、私の心に深く深く刻まれた。

気付いたとき、私も泣いていた。

素直なAくんと先生のむき出しの心に触れて、

心が締め付けられた。

 

Aくんにとって、その先生はかけがえのない存在だった。

彼にとって、今日の出来事はとても大きな出来事だったと思う。

願わくば、この経験を糧に、

さらに一回りも二回りも成長していってほしい。