大喜利。 116
ちょっとうちのクラスの男の子の、
最高な話聞いてくれますか!?
「先生、グランプリ企画をやりたい。」
そう、声をかけてきたのは、うちのクラスの男の子Aくん。
去年からの持ち上がりで、2年目のお付き合い。
昨年度、クラスでバズッた「グランプリ」を
今年もやりたいとのことだった。
断る理由などどこにもないので、
「先生はいいよー!それよか、みんなに聞いてみたら?」
そう伝えると、早速その日の終わりの会でみんなに聞いていた。
その結果、みんな「やりたーい!」ということになった。
早速、Aくんは、次の日には、グランプリ企画告知用紙を
作って持ってきた。
仕事が早い。
なので、スキャンしてデータ化し、
プリンターで大量生産。
そして、教室の後ろに用紙を置く場所を作って、
いつでもだれでも、グランプリを企画できるようにした。
ここで、「グランプリ企画」って何ぞやってことを説明しておく。
この取り組みは、クラスの誰でもが、参加者にも企画者にもなれる。
企画者は、クラスのみんなに、いつ、どんな内容のグランプリをするのか、
必要であれば、終わりの会などで、勝手に告知して、周知する。
グランプリの内容は、なんでも構わない。
過去には、「D-1グランプリ(でかい声グランプリ)」や
「マインクラフトの絵グランプリ」など、アクの強い企画も色々あった。
企画者は、場合によっては、成績優秀者に表彰状を書き、
終わりの会などで、表彰式を行う。
私は、それらを定期的に学級通信で紹介した。
それらが呼び水となり、また新たなグランプリ企画が生まれる、
といった具合に、去年かなり子どもたちはハマった。
2学期なんか、一時、グランプリ企画が15個ぐらい乱立して、
担任の私も把握していない間に行われて終わって、
みたいになってることもあった。 笑
そんなグランプリ企画を今年もやることになった。
もちろんだが、提案者のAくんは喜んだ。
そして、喜んだその勢いで、早速グランプリ企画を2つ作って掲示した。
一つは、「変な絵グランプリ」。
とにかく、自分が変と思う絵を描いて、それをAくんに渡せばいいらしい。
なんというゆるさ。 笑
でも、いいじゃない、そういう企画。
期限は来週いっぱいだったはずだ。
当然、私も参加するつもりでいる。
やるからには、優勝は自分がもらう。
「遠慮」「空気を読む」という言葉は、吾輩の辞書にない。
Aくんが企画したグランプリがもう一つある。
「IPPONグランプリ」である。
言わずと知れた松本人志がチェアマンを務める人気番組である。
それをやるというのである。
一体、どうやって実現させるつもりなんだろう。
興味津々の私は、先週行われたそのIPPONグランプリに、
解答者の1人として参加した。
指定日の休み時間、教室に残っていると、
Aくんが両手にあれこれ小道具を持ってやってきた。
「参加する人集まってー!」
そう、大きな声で周りに呼び掛けたAくん。
その結果、解答者として名乗りを上げたのは、私を含めて3人だった。
まさかの3人。
Aくんもさすがにこの人数は想定外だったらしく、
少しの間、呆然としていた。
こんな少人数で果たしてIPPONグランプリは成り立つのか。
緊張が辺りを包む中、Aくんは動いた。
「わかった。オレも出場するわ。」
ええええええええ!?
いいの、それ!?
え、じゃあ、誰が出題するの?!
てか、Aくん、お題全部知ってるやん!?
一瞬で頭の中にいろいろな疑問が浮かんだが、
口には出さず、全てAくんに任せた。
Aくんは、自分も含めて、4人を2グループに分けた。
Aグループは、参加者の男子二人、
Bグループが、Aくんと私だ。
各グループで予選を行い、その勝者同士が決勝戦を行うシステムらしい。
Aグループの二人の戦いが始まった。
審査員は、教室に居合わせた女の子3人。
3人が全員手を上げると、「IPPON!」となるらしい。
お題はAくんが出した。
解答は、教室にあるミニホワイトボードとマーカー。
答えが書けたら、手を挙げて、当てられたら解答する。
制限時間内によりたくさん「IPPON」を取った方が勝ちとなる。
そして、どちらがいくつ「IPPON」を取ったのかがわかるようにと、
Aくんは、小道具を用意してきていた。
白の折り紙で作ってきた上のようなもの。
これでどちらが何本IPPONを取ったのかを把握するらしい。
これを机の前にはりつけ、IPPONが出ると、
折り紙のバラバラに切られた短冊の一本を折り曲げて、上に上げるのだそうだ。
控えめに言って、最高じゃないですか!?
私は、このシステムを考え出したAくんの発想に大いに感心した。
限られた条件、材料の中で、最大限の工夫をする。
なんて創造性豊かなんだろう。
Aグループの戦いを見ていると、
Aくんがたくさんのお題を考えてきたことがわかってきた。
「生まれたての赤ちゃんを魅了した初めてのハプニングとは?」
「新しい和風料理の意外な食材とは?」
などなど。
一体、この短時間でどうやって用意してきたんだろう。
しばらくすると、Aグループの戦いが終わり、勝者が決まった。
いよいよ次は、Bグループの予選。私の出番である。
がらにもなく、ちょっと緊張した。
少なくとも、担任として予選落ちだけは避けたい。
そのプレッシャーが、私の体を固くしていた。
Aくんは解答者として出場することになった。
では、誰が出題するのか。
このときには、教室のギャラリーが増えていて、
その中の一人の女の子が、出題者役を買って出てくれた。
かくして、私とAくんの戦いの火ぶたは切って落とされた。
あまり考えすぎても良くない。
そう思い、とにかく手数を打つ作戦に出た。
しかし、審査員の女子たち…
クスリとも笑わへんやん!?
え、何々!?買収とかされてる!?
Aくんの解答にはくすくす笑ってちょいちょい手を挙げるのに、
私になると、能面のような無表情。
全然手が挙がらない。
私は焦った。
やばい、このままでは負ける。
しかし、手数を打てば打つほど、ドツボにハマっている感覚がつきまとい、
しまいには、横で見ていた別の女の子から、
「先生、頑張って。いつももっと面白いやん。いつも通りやったら勝てるって。」
と励まされる始末。
いやいや、普段通りやってるんですけどねぇぇぇ!!
しかし、形勢は逆転することなく、最終問題へ。
最終問題は、「写真で一言」。
本家では、ランダムに流れる写真のどこかでルーレットをストップし、
止まった写真で一言言うというお題になっている。
Aくんは、そのあたりもしっかり踏襲して準備をしてきていた。
紙に印刷した6枚の写真。
教室にあるサイコロを振って、出た目の番号が書かれた写真で一言。
抜かりない準備、創意工夫。
勝負を忘れて、感動すら覚える。
楽しむ方法って無限だ。
Aくんの自由さを見ていると、そんなことを教えられる。
ああ、Aくんに比べたら、自分なんてまだまだ凝り固まった考え方してるな。
そんな反省が浮かんでくる。
私は、そのまま一度も逆転できないまま、予選敗退した。 笑
決勝戦は、時間がなかったので、後日行われた。
これAくんが優勝したら、どうなんねやろ?
Aくんはその辺のこと考えてるんやろか?
そんな心配をしていたが、
私が打ち合わせでいない間に行われた決勝戦では、
Aくんは負けたらしい。
なんとまあ、最後はうまいこと。
きっと、Aくんのことやから、全力でやって、負けたんやろうけど。
私は、いつも子どもたちに言っている。
「クラスは、教室は、自分たちでいくらでも面白くできるところやで!」と。
Aくんは、そんな思いを体現してくれるステキな男の子だ。
このIPPONグランプリ、決勝戦には、かなりのギャラリーがいて、
勝負の行方を見守っていたということを後から聞いた。
最初の参加者が3人だっていいんだ。
続ければ、楽しいことは伝染していく。
純粋に楽しさの追求をしていると、
流れが変わってくることはよくある。
楽しんでいる人のところには、
楽しいことや楽しみたい人たちが集まってくる。
大人も子どもも一緒だろう。
まだ5月。
これからクラスがどんな面白くなっていくのか、
どんな面白い企画が生まれるのか、
担任としても、子どもたちと同じクラスの一員としても、
とっても楽しみだ。