小学校教員にょんの日々ログ

毎日の出来事や考え、思ったことなどとにかくアウトプット!

VACA 248

 近所によく行くパン屋がある。少しお高めの値段設定だが、その分、あまり普段見かけないようなおもしろいパンやおいしいパンがたくさんあって、パン好きのぼくにとってはたまらない。

 先日も妻と二人でそのパン屋へと出かけた。コロナで外出もままならない中で出かけるパン屋はいつもと違ってどこか特別感があって、少し遠出をするようなワクワク感があった。パン屋へ入ると、いつものように様々なパンがならんでいた。ゆっくりと、まるで美術館で絵画鑑賞をするかのように店内を回る。

 ふと目をやった先に、チーズパンがあった。商品名の書かれた札には「ラクレットパン」と書かれてあった。「ラクレット」といえば、スイスの、とかしたチーズをかけて食べる料理のことではなかったか、と思い出す。確かに、パンの上にはたっぷりのチーズがかかっていて、その見た目だけで、お腹が鳴りそうだ。ラクレットパンは全部で4種類あって、チェダーやゴルゴンゾーラ、モツァレラなどどれもおいしそうだ。その中の一つをトングで挟み、トレイに置く。そのほかにもいくつかパンを選び、会計を済ませて家に帰った。

 時刻は、午後6時。今からパンを食べると、晩御飯に影響が出る。「明日の朝以降に食べよう。」と決め、キッチンカウンターの上に置いておいた。

 翌朝、目を覚ましてリビングに降りてきたぼくは、パンの袋の中から、クロワッサンメロンパンを取り出した。何だか、無性に甘いパンが食べたかった。クロワッサンメロンパンを食べると、お腹いっぱいになったので、朝ご飯はあっという間に終了。身支度をして、仕事に行き、定時で上がって帰宅して、晩御飯を食べ、風呂に入って、寝た。

 翌朝、目を覚ましてリビングに降りてきたぼくは、パンの嚢の中から、ラクレットパンを取り出した。今日は、しょっぱい系のパンが食べたかった。上にかかっているチーズがすっかり固まってしまっていたので、電子レンジで少し温めることにした。ラクレットパンを持ち上げ、電子レンジに入れようとした。

 その時、何か視界に違和感を感じ、ぼくは手を止めた。何かが引っかかる。ぼくは、電子レンジに入れようとしたラクレットパンをじっくり見た。ほどなく、ぼくは違和感の正体に突き当たった。           

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え、うそやん。これ…手前の方、カビてる…?

だって明らかに色が、こう、なんていうか、青っぽいような、灰色っぽいような感じになってるから。え、もともとこんな感じやったっけ。いや、わからへん。

 2日前の自分の記憶をたどった。あのとき、確か…ラクレットパンには、4種類ぐらいあって…ぼくが買ったのは…あれ?何のチーズのパンやっけ?チェダーチーズ?いや、ゴルゴンゾーラ?それともモツァレラ?

 でも、どうしても思い出せない。あんなにたくさんの種類があったのに、それをひっくるめて「チーズ」としか認識していなかったのか、と自分の浅はかさを呪いたくなった。

 今、ぼくの目の前には、二つの選択肢がある。

 一つ目は、これがチェダーチーズのラクレットパンであるという前提に立って考えるというもの。とするならば、これはカビてる可能性が一気に高まるので、食べない方が身のためだ。

 二つ目は、これがゴルゴンゾーララクレットパンであるという前提に立って考えるというもの。こちらだと、もともとカビてて、こういう見た目になってる可能性が高いので、食べても大丈夫だろう。

 どっちだ…身の安全か、満腹感か。


 たっぷり3分ほど迷った挙句、ぼくは、ラクレットパンを、そっとゴミ袋に入れた。今でも、この時の自分の判断が正しかったのかわからない。ひょっとすると、あのまま思い切って食べていても何も起きなかったかもしれないし、逆に食べたことで食中毒を引き起こし、大変な思いをしていたのかもしれない。

 変化の激しいチーズの見た目、買ったパンのチーズの種類に対する記憶の曖昧さ、それが引き起こす判断の不確実性…。

 VUCA時代をチーズパンに見た一日だった。