3冊目「『人間とは何か』はすべて脳が教えてくれる」 246
今年度3冊目の読了はこちら。
著者は、アーケシュフース大学病院の神経専門医で、オスロ大学で教鞭もとっている。
最近、脳科学や学習科学、認知心理学に興味がある。子どもたちの学びをもっと科学的なアプローチからも充実したものにしたいのと、学びが生起するメカニズムについてもっと理解し、それを取り入れて授業を組み立てられるようになりたいからだ。
そう思って手に取った本書だが、その内容は、人間生活全般について言及されていて、もっと「学習」という「側面にフォーカスしたものを期待していた自分としては、少しピントがずれてしまった感は否めない。
が、その中でも、教育に還元できると思った部分について以下にまとめていこうと思う。
まず、「権威への服従」という部分に共感した。
アメリカの心理学者スタンレー・ミルグラムの研究からの引用だ。
「通常の知能を持つ65%の人々が、権威者から指示されれば、仲間に危害を加えることがある」という部分。
学校での子どもたちの集団心理にも似ている。
一人ずつだといい子だが、集団になると難しくなるというのは、よく聞く話だ。
人が集団で何かをするときには、個人の良心が働きにくくなる。
でも、これって、逆にプラスで使えないのだろうか。
そこに関しては疑問が残る。
4月が始まって、部会での話し合いで、今年の授業を誰がするかという話になった時、急にみんなの歯切れが悪くなった。
きっとそれぞれの先生方の中で、「自分はやってもいい」という思いがあったのだろうけれど、それが集団の場でなかなか言い出しにくい、お互いにけん制するような雰囲気が邪魔をして、膠着状態になってしまったのだろう。
まさに、ミルグラムの研究が示したことと一致する。
場にいるメンバーが、自分の発言に自己検閲をかけすぎると、その場は健全とは言い難い。
そのような場で発言することは、脳の前頭葉でさえ間違っていると判断できない側面があるらしい。
だから迷ったら思い切って自分の意見を言う方がいい。
自分自身、職員の中でもそういう自分を忘れないようにしたいし、子どもたちがそういう状況にあるときには、暖かく見守って、発言できるようにそっと背中を押せるようなサポートを意識したい。
次に、よく「将来の自分のためになるから勉強しましょう」とか「新しいことをどんどん学んで賢くなりましょう」という言葉に関して。
脳科学的に見れば、これは「正解」。
「新しいことを学ぶ」というのは、脳の中の神経細胞ネットワークが新たにつながったり、太くなったり、強化されたりすることを意味する。
これは、今まで何となく教員が自分の経験則からだけでやっていた声掛けに脳科学的なエビデンスという援護射撃を得たことになる。
子どもたちに学ぶことのメリットを伝えるときにも生かせそうだ。
そして、「新しいことを学ぶ」というのは「できるようになる」とは違う。
「学ぶ」ことそのものが、つまり、「チャレンジすること」が神経細胞ネットワークを増やし、強くしていくという事に他ならない。
これは、失敗を恐れてなかなか一歩を踏み出せない子どもたちにもすごく重要な事実ではないかと思う。
そして、やればやるほど、ネットワークは強く、速くなり、ハードルを感じることなく、前より楽にできるようになっていく。
成功するかどうかは重要なことではない。
チャレンジをくり返していくことが重要だ。
今回得たこの知見も生かして、子どもたちに前向きな声掛けやフィードバックをしていきたい