少しずつ刻んでいこう。 198
日曜日、運動会の打ち上げがあった。
打上げの中で、何人かの先生と話をしていて、成績表の所見の話になった。
運動会など、行事ごとがあったら、その都度所見を少しずつ進めていけたら所見も学期末にまとめて、苦しまなくてもいいんですけどね、と。
若手の先生たちが口をそろえて言う。
私は、数年前から、子どもたちが帰ったら、その日あったことをOneNoteにメモするようになった。
メモさえしておけば、勝手にPCとデータを同期してくれるので、このシステムのおかげでずいぶん所見を書くのが楽になった。
学期末にするのは、たまったメモを字数に合わせて削ったり、つなげたりたりする作業ぐらいだ。
2時間ぐらいあれば、終わる。
そういう話も、流れの中で話した。
「なるほど、そういう風にすればいいのかあ。」とほとんどの先生がうなずいてくれた。
でも、同時に、「それができればいいんですけど、なかなか習慣化するところまでいかないんですよね。やろうとは思うんですけど、ついつい日々の目の前の仕事に追われて、後回しにしてる内に、学期末になってるんですよねー。」と口をそろえて言う。
んー、確かに。
自分のことだけでいいなら、先ほど言ったようなことで事足りるのだが、こういう先生方の状況では、やはり学期末に近づくにつれ、心の余裕がなくなってくる。
心の余裕がなくなってくると、人間関係がぎくしゃくするかもしれないし、そのぎくしゃくは間違いなく、子どもたちへも影響を与える。
そして、余裕のなさは、ミスを生み、そのミスへの対応に追われ、さらに心の余裕がなくなる。
負の連鎖である。
で、そこで一つ思いついたことがある。
お酒がいい具合に回っていたこともあるのかもしれない。
でも、その時の私には、そのアイデアがいいものに思えたのだ。
私は、思いついたことを先生方に話した。
「あのー、それやったら、みんなで放課後、『所見の会』みたいな感じで、ゆるーく、どっかの教室に集まって所見書くみたいな企画どうですか?時間は、4時半から5時までの30分限定とかで。自由参加・自由退出で、一人でも書けたら儲けものみたいなコンセプトで。」
すると、先生方からも上々の反応が返ってきた。
人間、やろうやろうと思っていても、一人だといろいろとできない言い訳を並べて、先延ばしにしてしまいがちだ。
でも、コミュニティの力をうまく使えば、心理的ハードルは下がるのではないか。
そう考えていて、つながった。
この本に書いてあった。
そうだ、そうだ、7つの力をうまく組み合わせて成し遂げる力を高められるんだ。
そして、今朝。
職員朝礼。
「他に連絡のある先生はいますか?」
司会の先生の言葉に、私は手を挙げた。
「あのー、連絡と言うか、告知と言うか。運動会も終わったんで、成績表の所見に書けることが結構あると思うんですけど、学期末にいつも所見で忙しくなるので、良かったら、今日の放課後、4時半から30分ほど、自由参加で、書きたいなって人で集まって、所見書きませんか?『所見の会』みたいな感じでゆるく。とりあえず、ぼく、4時半になったら、空き教室で所見書いてるんで、良かったら、一緒に書きましょ。」
放課後、4時半少し前になって、私は空き教室のクーラーのスイッチを入れた。
黒板に、簡単に所見に便利な時数カウントの数式を書いて、一足先に書き始めた。
5分ほどたって、4時半になったころから、ぽつぽつと先生たちが、一人、また一人とやってきて、好きな席に座って所見を打ち始めた。
時折、思い出したことがあった時は、ゆるくおしゃべりした。
「あ、そうそう。先生のクラスのA君、運動会の練習で隊形移動のとき、〇〇頑張ってましたよ!」
とか、
「あ、そういえば、運動会委員会の仕事でBさん、最後まで〇〇頑張ってくれてましたよ。」
とか。
そうやって、情報交換しながら。
30分はあっという間で、5時には、みんな引き上げて、職員室に帰った。
働き方改革が言われるようになってしばらく経つ。
これまで、自分の仕事をどうシンプルにして、時間を生み出すか。
そういう視点で考えてきた。
さる先生の「全バカ」を読んだり、TwitterのTL上に上がってくることを参考にしたりもした。
ずいぶん、個人の仕事としては改善されたと思う。
でも、それじゃどこまでいっても一人だ。
一人でやることも大切だけれど、それを学校の先生たちみんなで共有して、縛りにならない・負担にならないシステムを作っていかなければ、だめなんだ。
だって、学校の先生みんなの業務が改善されなければ、結局そのしわ寄せは、子どもたちにいくことになるから。
私には、そういう視点が足りていなかったなと今回の提案をしてみて痛感した。
何より、所見の会が終わったあとの、先生たちの嬉しそうな顔。
疲れているはずなのに、元気が湧いてきているような表情。
残念ながら参加できなかった先生たちの「参加したかったです!」という声。
トップダウンではない、ボトムアップだからこその良さが活かされた企画なんじゃないかと感じた。
今回、たまたま私が提案しただけで、次からは誰が提案したっていい。
職員朝礼で、やりたいなーって人が声をかけて、「やろうかな」って人が勝手に集まってやればいい。
それぐらいのゆるさがいい。
その積み重ねが、刻んでいく日々が、未来の自分を救う。
こういうみんなを巻き込んでの業務改善を、ゆるく、でも、効果を狙って、楽しみながらやっていければいいなと思った。
みんなでなら、やっていけるんじゃないかなと思った。
すでに、2回目の開催を複数の先生が希望している。
職場の先生たちみんなで育てていけたらこれほどうれしいことはない。
みんなでハッピーになっていこう。