小学校教員にょんの日々ログ

毎日の出来事や考え、思ったことなどとにかくアウトプット!

「町田くんの世界」 132

昨日、先週に引き続き、2週連続で、映画を見に行った。

先週の「海獣の子供」と並んで、見たかった「町田くんの世界」だ。

見たいと思ったのは、監督が石井裕也だったから。

舟を編む」で一気に知名度が上がったが、

他にも、「あぜ道のダンディ」や

最果タヒの詩集が原作の「夜空はいつでも最高密度の青色だ」など、

ステキな作品がたくさんある。

極めつけは「川の底からこんにちは」。

あの衝撃は、これまで見た邦画の中でも群を抜いている。

 

そんなインパクトの強い作品をたくさん作る石井監督の新作。

きっと面白いに違いない。

主演二人がオーディションで選ばれたほぼ素人。

しかし、わきを固める俳優芯が死ぬほど豪華。

そんな配役にも興味をそそられた。

 

町田くんは「誰にでもやさしくしてしまう」博愛主義者の高校生。

そんな町田くんが、ある日、「人が嫌い」だという猪原ななと出会う。

二人の関係は、周りにいる人たちを巻き込んで、行きつ戻りつしながら、

衝撃のクライマックスへなだれ込んでいく。

二人の恋と青春の物語。

そんな感じだろうか。

 

ここからは、いつものように私個人の感想。(ネタバレあり)

そういう意図で映画がつくられているのかとか、

そんなことは知らないけれど、

とにかく鑑賞して自分が思ったこと、考えたことだけを書く。

 

映画を観ていて、気付いたら、涙を流している場面が4つあった。

一つ目は、町田くんがクラスメイトの西野くんと猪原さんと

3人でボーリングに行く場面だ。

町田くんは、スポーツも勉強もできない。

当然ボーリングもできない。

スコア表には、町田くんだけ「G」「0」が並ぶ。

けれど、町田くんは、淡々としている。

自分のできなさに慣れてしまっている。

自分自身へのあきらめがにじむ。

そして、最終投球。

町田くんが投げたボールは、ゆっくりとレーンを転がりながら、

最後に一番端の1ピンだけ倒す。

スコア表に初めて表示される「1」。

けれど、町田くんは喜ばない。

どころか、肩を落とす。

「やっぱり自分はこうなんだ。」表情がそう物語っている。

その時、そんな町田くんにクラスメイトの西野くんが後ろから抱きつく。

「町田くん…!1本倒れたよ!1本倒れたんだよ…!」そう言って、

町田くんの背中に顔をうずめる西野くん。

これだけ書くと、西野くんがオーバーな奴に見えるかもしれないが、

それは私の書き方が下手くそだからなので、申し訳ない。

西野くんは、町田くんの優しさや一生懸命さに救われたうちの一人だ。

だから、町田くんが肩を落とす姿を見て、

何か自分にできることはないかと、

いてもたってもいられなくなった結果、

先に書いたような行動に出たのである。

 

二つ目は、仕事でアマゾンに行っていて普段家にいない父が、

帰ってきた場面である。

猪原さんのことが気になって、でも、わからなくて、

心の中がモヤモヤで今にも爆発しそうな町田くん。

 

町田くん「ねえ、お父さんはどうしてお母さんを好きになったの?」

父「これまで世界中の色んな生き物を調査したり、観察して、研究してきただろう?…わからなかったんだよ。」

町田くん「え?」

父「母さんだけは、どんなに研究してもわからなかったんだよ。そりゃ夢中になるだろ?だから今でもこっそり研究を続けてる。」

父「はじめ、世界はわからないことがあるから、おもしろいんだよ。わからないことがあるから、美しいんだよ。だからな、わからないことには、しっかりと向き合え。向き合って、自分の胸に聞いてみるんだ。」

父役の北村有起哉の演技が最高だった。

 

三つ目は、町田くんが自転車で爆走しながら、雨の中、自分の本当の気持ちに気付く場面。

「ぼくは、猪原さんが好きだ!あの時も、あの時も…初めてあった時から好きだったんだ!」

町田くんが人生で初めて自分が好きな人への気持ちでいっぱいになる。

町田くんが手に入れた「自分」というみずみずしさに心が動く。

 

最後の四つ目は、クラスメイト達が、町田くんのピンチに、

自分のことを投げうって駆けつける場面。

このとき、それまでの町田くんと、クラスメイトたちの立ち位置が、

見事に反転する。

このことは、母役の松嶋菜々子の言葉に集約されている。

「あら、はじめは、今大変なときね。世界がグルんと変わっちゃうから。」

「人のことばかり考えていた」町田くんと、「自分のことばかり考えていた」クラスメイト。

が、

「自分のことに必死になる」町田くんと「町田くんのことだけを考えている」クラスメイト。

この反転が鮮やかで、映画のクライマックスを盛り上げている。

 

 

 

世界はわからないからおもしろいし、世界はわからないから美しい。

 

そんな世界を、周りにいる人たちが、町田君というフィルターを通して、

見ていくのである。

その過程が最高にステキで、その純粋さに、美しさに涙してしまうのだ。

人のことばかり考えている町田くん。

そんな彼のやさしさや一生懸命さに心動かされて、

変わっていくクラスメイトや周りの大人たち。

そんな、町田くんに影響を受けて変わった周りの人たちに影響を受けて、

「誰にでもやさしくすることは、誰かを傷つけることにもなる」と気付く町田くん。

町田くんが、周りの人々を満たし、

その周りの人々が町田くんを満たす。

わからないことだらけの世界は、悪意に満ちているように見えてしまうけれど、

それでも、一生懸命、向き合って、悩んで、

そうやって生きていく世界はきっと美しい。

セリフが、登場人物が、ストーリーが、

「存在の肯定」をものすごく強く応援してくれている。

だから、見終わった後の、胸に希望が宿る感じが何とも心地いい。