小学校教員にょんの日々ログ

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16冊目「フーガはユーガ」 112

今年度16冊目の読了はこちら。

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「フーガはユーガ/伊坂幸太郎

伊坂幸太郎作品は、デビュー作から欠かさず読んでいる。

やっぱりうまいなあと思う。

伊坂さんの伏線の回収は本当に見事。

今回も物語序盤からちりばめられた伏線の数々が、

物語後半に向かうにつれ、きれいに回収されていく。

回収されるだけではなく、その伏線が物語の推進力を上げていく。

そして、プロット。

ずっと物語の全体像だと思って読み進めていたものが、

実はさらに大きな物語の一部分でしかなくて、

読み進めると、少しずつ物語の全体像が明らかになっていく、

その感じがたまらなく楽しい。

一級のエンターテインメント作品だなあと思う。

 

今回の作品は、ある双子の物語である。

タイトルにもあるように、風我と優我という名前の双子である。

そして、これも表紙に書かれているのだが、

「TWINS TELEPORT TALE」

そう、双子の入れ替わりの話である。

しかし、その入れ替わりは、ある特別な条件下で、

限定的に、そして、強制的に起こる。

これが、双子の意思で自由に何度もできるとなると、

物語の魅力は半減してしまうだろう。

このあたりの設定の匙加減が絶妙である。

そして、この設定に関わるようなエピソードが作中に出てくるのだが、

その場面がかなり気に入っている。

 

ひょんなことから、捨てられそうになっていた

カードゲームの雑魚カードを手に入れる主人公。

その雑魚カードが自身の人生と重なって見えた主人公は、

ゲームショップの店員にカードゲームのやり方を教えてもらい、

その雑魚カードを使って、対戦相手に勝利するまでになる。

「雑魚カードも他のカードとの組み合わせや使い方によって、役に立つ。」

そんなセリフを主人公が言う。

そんな場面だ。

 

このセリフは、そのままこの作品の構造を表している。

風我と優我が、「雑魚カード」なのである。

それ単体では、物語の中で展開を変えるような、

運命に抗えるような力を持っていない。

しかし、そこは「組み合わせ」である。

「使い方」である。

まさに、そうした工夫によって、

自分たちを翻弄する運命に、人生に抗おうとするのである。

 

幼少期からの悲惨な生い立ちによって、

人生をあきらめているかに見える風我と優我。

けれど、物語の様々な場面で、そんな自分たちの人生を

どこかで挽回したいと純粋に思っていたりする。

それは、表情や言葉にわかりやすい形で出たりはしない。

けれど、ささやかながら、運命に抵抗しようとする風我と優我。

しかし、そんなささやかな抵抗をあざ笑うかのように、

物語は悪い方向へ進んでいく。

それでも抗い続ける姿がせつない。

そして、二人にとってベストとは言えない結末を迎える。

ここまで書くと、「なんだ、バッドエンドなのか。」

と思われるかもしれないが、そういうわけでもない。

そこもまた伊坂作品のいいところかもしれない。

いつも必ず少しは、

救いが、

未来が、

希望が残されている。

ベストではないが、そのささやかな抗いで、

確かに二人は運命を変えて見せたのだ。

 

そのラストがとても胸を締め付ける。