小学校教員にょんの日々ログ

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13冊目「宝島」 90

今年度13冊目の読了はこちら。

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「宝島/真藤順丈

今年のバレンタインデー、チョコの代わりに

奥さんにプレゼントしてもらった本だ。

デビュー作「地図男」を読んだのは、

ずいぶん前のこと。

 

本作は、全541ページの大作だ。

そんなこともあり、日常生活の中で読み進めてはいても、

なかなか進んだ気がしなかった。

それでも、コツコツ読み進めていった。

そして、昨日ようやく読了。

 

誤解のないように言っておきたいのが、

気が乗らないまま、読み進めたのでは決してないということだ。

気が乗らないどころか、「宝島」は、

ページ数にも増して、話の内容がとても壮大で、深い。

その圧倒的なまでの作品世界を

隅々まで堪能しながら読み進めていった。

 

舞台は沖縄。

戦後まもなくから、

日本返還を果たすまでの沖縄を生きた

3人の男女が主人公だ。

三部構成で、3人は少年少女から大人へと成長していく。

 

 

 

全編沖縄の方言で描かれており、

登場人物の話す言葉はもちろんのこと、

語り部(ユンター)も沖縄の方言を駆使して、

物語を紡いでいく。

 

オンちゃんという一人の英雄の背を追い、

戦後の米軍統治下の沖縄で、

自分たちのアイデンティティを奪われまいと、

基地に侵入しては物品の略奪をくり返す日々。

それは、3人にとって、不自由さはあれど、

満たされた日々だった。

しかし、カデナ・キャンプ襲撃に失敗したその日、

オンちゃんは3人の前から姿を消す。

 

これを機に、3人の運命の歯車は大きく狂い始める。

それぞれに、消えたオンちゃんの影を追い続け、

日々を懸命に生きていく。

しかし、もがけばもがくほど、

3人は運命に翻弄され、離れ離れになっていく。

「沖縄に生まれ、米軍に支配される自分たちは、何者なのか。」

「何を道しるべに生きていけばいいのか。」

「そもそも何のために生きるのか。」

様々な問いが常に3人の頭の中をめぐる。

答えは、出ない。

けれども、もがかずにはいられない。

抗わずにはいられない。

「生きることをあきらめる」ということは、

3人がその背を追い、憧れ続けたオンちゃんを

否定することに他ならなかったから。

 

しかし、わずかにつかんだ手掛かりも、

いつも、そのしっぽをつかむ前に煙のように消えてしまう。

それでも運命に抗い続ける3人。

 

そんな3人の生き様が、3人それぞれの視点を切り替えながら、

描かれ、それは、戦後の沖縄を駆け抜けていく。

 

あまりの大作で、これ以上あらすじをうまく書ける気がしない。

だから、止める。

 

消えたオンちゃんの行方は?

3人の運命は?

そのあたりが物語の中心になる。

 

読了した今、放心している。

 

その圧倒的な筆致に。

驚異的な物語の豊かさに。

 

戦後統治の名目のもと、

くり返される米兵による悲惨な事件、

軍用機の墜落事故。

それらの犠牲になるのはいつだって罪のない島民だ。

そんなくり返される事件・事故によって、

蓄積された民族の怒りが3人を通して、

痛いほどに伝わってくる。

人としての尊厳を踏みにじられ、

味方であるはずの日本政府さえ、はしごを外す地獄。

そんな中でも自らのアイデンティティを守ろうと、

必至に抗う人々の魂の叫び。

しかし、そんな叫びは、また新たな事件によって、

踏みにじられる。

戦後沖縄の、いや、現在に至るもなお続く、

沖縄の抱える大きな闇、

その一端を垣間見た気がした。

 

3人は、それぞれの立場で懸命に生きる。

それでも報われない日々は続く。

その中で、道を踏み外してしまうこともある。

それでも、己が信念を貫き、

傷つきながらも前に進もうとする3人に、

涙が止まらなかった。

本当に、号泣レベル。

ぐしゃぐしゃになりながら、読み続けた。

読書でこんなに泣いたのは、いつぶりだろう。

 

中でも第三部のクライマックス場面は、

圧巻の一言。

というか、圧巻という言葉すら霞む。

読みながら、読者である私は、

いつの間にか、3人に続き、

キャンプ・カデナを駆け抜けていた。

そして、ついに明かされる英雄オンちゃんの真実。

涙は次から次へとあふれ、止められなかった。

ボロボロになりながらも、

何度もあきらめそうになりながらも、

絶望の淵に立たされ続けてもなお、

生きることをやめなかった3人に心からの拍手を贈りたい。

 

舞台が戦後の沖縄であることは、先に書いたが、

これは、沖縄に限らず、すべての生きる人に、

とてつもなく大きな勇気と希望を与えてくれる本だ。

 

抗い続けろ。

運命に翻弄されるな。

人生は自分の手で切り開け。

決してあきらめるな。

読了した今も、

3人が、

オンちゃんが、

そう背中を押してくれている。

 

それと、3人それぞれのすれ違った人生が、

クライマックスで再び出会い、

それが大きな一つの流れに収束していく様は

見事としか言いようがない。

語り部(ユンター)に秘められた真実も

最後に明らかになるのだが、

その時の胸にこみあげた熱い感情は、

きっとこの先もずっと忘れないだろう。