小学校教員にょんの日々ログ

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5冊目「熱帯」 41

大好きな森見登美彦氏の新刊。

が、しかし、買ってからどうにも読み進めるのが億劫だった。

その頃の私は(いうても最近やけど)、割とビジネス書の方に傾倒していた。

だから、「あ!新刊出てる!」と即購入したものの、

その他のまだ読んでいない本の中に埋もれさせてしまっていた。

少し自分の中の小説ブームから離れてしまっていたのだ。

それが、前回、4冊目として「QJKJQ」を読了したことで、

なんだか根拠のない自信がついた。

「なんや!まだまだスイスイ読めるやんか、自分!」

そんな感じにである。

で、4冊目読了の勢いそのまま、この5冊目に取り掛かった。

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森見登美彦著「熱帯」

私は森見さんの著書では、

四畳半神話大系」や「恋文の技術」、

夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」などが好きだ。

だから、今回の「熱帯」は読み始めてしばらくして、

「あ、好きな方の流れじゃないやつかな。」と思った。

どちらかというと、前作「夜行」に近い感じ。

まあ、それはそれで嫌いではないので、気楽に読み進めた。

第2章の終わり頃からだろうか。

ページをめくる手が止められなくなったのは。

本当に止まらない。

トイレへ行っては読み、

ご飯を食べては読み、

テレビがついててもそっちのけで読み…。

しばらく感じていなかった本への没入感を肌で感じた。

そして、結局夕方から読み始めて昨夜12時半まで

貪るように読んで、読了。

いやあ、面白かった。

謎が謎を呼ぶ展開にずぶずぶハマっていった。

 

この本をなんと説明したらいいだろう。

そもそも説明なんてできるんだろうか。

今、この記事を書きながら途方に暮れている自分がいる。

だから、本の帯の文で、説明からは逃げて、さっさと感想を書くことにする。

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裏表紙の帯

本人が書いているように、本当に怪作と呼ぶにふさわしい一冊である。

タイトルにもなった「熱帯」という本が作中出てくるのだが、

その奇妙な本をめぐる謎が、読み進めるにつれ、どんどん膨らんでいく。

まるでほどこうともがくほど、ほつれていく糸のよう。

その展開に翻弄される。

けれど、いつも記憶の片隅にある何かがひっかかっているような感覚で、

「あれ?これってどっかに出てきたよな?ん?気のせい?」

なんて思っちゃうから、気になって気になって。

そして、物語の輪郭はどんどんあいまいになっていく。

森見登美彦の「熱帯」を読んでいるのに、

それは作中の「熱帯」に変わり、

その作中の「熱帯」をめぐって、目まぐるしく語り手が変わる。

その語り手も本人が語っているのか、

本人が語っている話の中の登場人物が語っているのか、

なんだかよくわからなくなってくる。

作中、キーワードの一つとして「千一夜物語」が登場するが、

この「熱帯」自体が複雑な入れ子構造になっていて、

それが読者を何とも言えない酩酊状態に誘い込む。

 

はたして、

表なのか裏なのか。

現実なのか夢なのか。

真実なのか虚構なのか。

過去なのか現在なのか。

永遠なのか刹那なのか。

 

でも、そのどちらもが同時に存在しているような。

メビウスの輪」「エッシャーのだまし絵」みたいな小説だと思った。

そして、物語終盤、さらに加速度的に入り乱れる表裏、虚実。

それらが第5章の最後で収束した…かに見える。

が、そこからさらに「後記」が続く。

そして、驚きの結末で物語は終わる。

 

以前、ラーメンズ小林賢太郎がやっている「ポツネン」という舞台を見に行った。

そのネタの中のセリフにこんなものがあった。

 

「むかーしむかし、あるところにおじさんとおばあさんが住んでいました。

ある日、おじいさんがおばあさんに言いました。『むかーしむかし、あるところに…』ループ!」

 

まさに、こんな感じの小説。

鏡と鏡を合わせたら、永遠に同じ繰り返しが続くような。

 

あー、うまく言えない!もやもやする!

なんて説明しにくい小説なんだ!!

でも、この秘密を誰かと共通したくてウズウズもしている。

まるで、作中で「熱帯」にとりつかれた登場人物たちみたいに。

ああ、この感じ自体、入れ子構造みたいになってる気がする!

私が読んだ「熱帯」の中に、森見さんの「熱帯」があって、

その中に、さらに別の「熱帯」があって…。

まるでマトリョーシカ

とにかく、おすすめの一冊です。

とても興奮しているので、

早速職場の読書大好き先輩先生のところへ持って行って、

読んでもらって、この謎に満ちた感覚を共有しようと思います。